色々な慢性疾患の治療2

不妊症

不妊症とは生殖可能な年齢において、結婚後2年以上経過しても子供ができない人を言う。全夫婦の約10%が不妊症であると言われている。妊娠の過程は、夫婦生活の際に、女性の排卵日に、男性の精子が子宮卵管の中で卵子と出会い、精子が卵子の中に入り込み、受精が行なわれ、子宮内膜に着床する。着床した受精卵は、胎盤を形成して発育し約10か月の後に出産する。この妊娠のどの過程においても、障害が発生すれば、順調な妊娠とはならないで、不妊症の原因となる。通常の妊娠が成立するためには、女性に正常な排卵があり、精子の数や運動能力が正常で、卵管が通っていて、着床する子宮内膜が正常なであることが大切である。西洋医学的治療では、ホルモン療法や配偶者間人工受精(AIH)、非配偶者間人工受精(AID)、体外受精などが行なわれている。不妊症の漢方治療は、西洋医学的治療とは全く異なる方法で行なわれる。いろいろ検査してあまり異常はないのに、妊娠できない、すぐ流産してしまうという不妊症に漢方治療が効果をあげる場合が多い。不妊症の漢方治療の原則は女性について言えば、妊娠しやすい母体を作ることである。男性については、機能を高め、精子の数や運動能力を増強することである。以下女性について述べる。漢方的に女性の不妊症の原因としては、①冷え症、②お血体質、③胃腸虚弱、④実証で肥満型のタイプがある。

①冷え症は不妊症の重要な原因で、当帰や芍薬という生薬で、血を温めると妊娠しやすい母体になる。

②お血体質の人は、「血」の病理的産物であるお血が身体に溜まっているので妊娠しにくい状態になっている。お血を治療する駆お血薬の桃仁や牡丹皮などでお血を除き、妊娠しやすい母体にする。

③胃腸虚弱の人は、妊娠を維持する力が低下しており、胃腸を丈夫にして妊娠に耐えられる母体にする。

④実証で肥満型の人は、身体に余分なものが付いていて妊娠を妨害していると考える。瀉剤という身体から余分なものを排出する漢方薬で治療する。大黄や枳実などの生薬が用いられる。

男性不妊症については、漢方治療の目的は、よい精子を作りだすための身体を作ることである。主に、胃腸や腎を補う漢方薬を用いる。よく用いられる漢方薬としては、補中益気湯、桂枝加竜骨牡蠣湯、八味地黄丸などがある。

漢方的不妊症の原因

①冷え症

②お血体質

③胃腸虚弱

④実証で肥満型のタイプ

不妊症の漢方薬

体力がある場合(実証)

・桂枝茯苓丸・腹力充実してお血のある時に用いる。

体力がない場合(虚証)

・当帰芍薬散料・冷え症で眩暈や下腹部に圧痛などのある時に用いる。

・当帰建中湯・胃腸が弱く、月経痛などの強い場合に用いる。

・六君子湯・脾胃の虚証の時に用いる。

〔症例〕32歳、挙児希望とのことで当院を受診。結婚して2年になるが、妊娠しないとのことで、1993年6月に来院した。月経不順と月経痛があり、月経血中に血塊がある。下腹部にお血の圧痛もある。桂枝茯苓丸を約4週間服薬して、妊娠した。予定日の3日後、3700グラムの男児を出産した。

〔本例の服薬指導〕桂枝茯苓丸は、実証に用いる漢方薬である。お血を出す作用があり、月経の時に、一時的に血塊が多く出るかもしれないことを説明し、血塊がでることはお血であるから良いことであると説明する。もし下痢したり、だるくなったりする時は医師に相談するようにと話す。

注・配偶者間人工受精(AIH)とは、配偶者の間で、夫から取り出した精子を、経膣的に妻に挿入し受精をさせる治療である。

非配偶者間人工受精(AID)とは、非配偶者の間(夫婦でない場合)、男性から取り出した精子を、経膣的に女性に挿入し受精をさせる治療である。

体外受精は、原則的には配偶者間で行なわれ、夫から取り出した精子と経腹腔鏡的に取り出した卵子を試験管の中で受精させ、受精卵を妻の子宮へ戻す治療である。