色々な慢性疾患の治療2

全身性進行性強皮症

全身性進行性強皮症(PSS)は全身の結合組織が進行性に変性を生じ、広範な皮膚の硬化とともに、各臓器に機能障害をきたす疾患である。女性に多く、症状は四肢末端のレイノー症状、手指の浮腫性硬化、発熱、関節痛、嚥下困難、咳嗽、呼吸困難(肺線維症)などがある。西洋医学的治療は副腎皮質ステロイドが第一選択である。漢方薬の治療としては、慢性に経過する病気なので、気と血が虚していることが多い。そのために十全大補湯を基本処方として用い、肺線維症などがあれば滋陰至宝湯を、レイノー症状があれば当帰四逆加呉茱萸生姜湯を併用する。

・体力がある場合(実証)は、関節痛などの症状がある時には、よく苡仁湯を用いる。浮腫などの腎臓症状を合併している時には、柴苓湯を用いる。体力がない場合(虚証)は、全身倦怠がひどい時には、十全大補湯を用いる。レイノー症状があれば、当帰四逆加呉茱萸生姜湯を用いる。咳嗽、呼吸困難があれば、滋陰至宝湯を用いる。

・滋陰至宝湯は、体力の衰えた人の慢性の咳や呼吸困難に用い、肺繊維症、肺気腫、慢性気管支炎などに用いて効果がある。

・柴苓湯や滋陰至宝湯には、柴胡が含まれており、副作用としての間質性肺炎があり、咳や息切れが出現または増悪した時には注意が必要である。

全身性進行性強皮症の漢方治療

体力がある場合(実証)

・よく苡仁湯・関節痛などの症状がある時に用いる。

・小柴胡湯合五苓散・浮腫などの腎臓症状を合併している時に用いる。

体力がない場合(虚証)

・十全大補湯・気と血の虚している時に用いる。

・当帰四逆加呉茱萸生姜湯・レイノー症状、手指の浮腫性硬化の時に用いる。

・滋陰至宝湯・咳嗽、呼吸困難(肺線維症)の時に用いる。

〔症例〕Fさん、50歳の女性、全身性進行性強皮症の患者さん。最近、咳と息切れが出現しだんだんとひどくなるという。顔面は浮腫性で、てかてか光っていて、両手の指の第1関節より遠位部が白くなっておりレイノー病の所見がある。胸部の聴診で両背部に「ばりばり」というベルクロ・ラ音が認められ、肺線維症を合併していた。慢性の虚証の咳嗽に効果のある滋陰至宝湯と体質を強化するために十全大補湯を1日交互に投与し、身体を温める附子を加味した。1か月後、咳と息切れは著明に改善した。以後4年間、漢方薬の治療を続けていて、悪化することなく経過している。