色々な慢性疾患の治療2
更年期障害
更年期とは女性の45歳から55歳までの期間を言う。この時期は、妊娠出産可能な性成熟期から老年期への移行する期間で、卵巣の機能が衰えて女性ホルモンが減少して月経が次第になくなってくる。女性ホルモンの減少によって、自律神経や身体のバランスが崩れて、加齢による影響も伴って多彩で不愉快な症状が出現する。これを更年期障害といいます。具体的には、顔のほてり、発汗しやすい、腰や手足の冷え、動悸(主に自律神経系の異常による症状)、不眠、いらいら、怒りやすい、憂うつ、頭痛、めまい(主に精神・神経系の異常による症状)、肩こり、腰痛、疲れやすい(主に運動・神経系の異常による症状)などの症状が起こってくる。更年期障害は個人差が大きく、日常生活に支障を来すほど重い症状の場合からほとんど気にならない位の軽い症状までさまざまである。西洋医学的治療では、女性ホルモンを補う治療や精神安定剤の投与が主なものである。西洋医学的治療により、のぼせ、ほてり、不眠などの症状は改善され生活の質の向上を図ることができる。しかし女性ホルモンを投与すると、子宮頸癌、子宮体癌、乳癌などの女性ホルモンが関係する悪性腫瘍の発育を促進するので、これらの癌がないことを確認する必要がある。また、女性ホルモン補充療法には、血栓症や塞栓症や肝障害などの副作用や子宮内膜症や子宮筋腫のある人は症状が悪化することがある。主治医の先生とよく相談して、十分に納得された上で治療をするのがよい。
日本では、古くから「血の道」という言葉があり、月経に関連する一切の病態を指していて、更年期障害も「血の道」の一つで、昔から漢方薬による治療が広く行なわれてきた。漢方薬は副作用がほとんどないので、漢方治療は更年期障害には適した治療と言える。漢方医学では、更年期障害は気、血、水の異常ととらえて治療を行なう。
漢方医学では、「気」と「血」と「水」という3つの要素が、全身を絶えず巡っていることによって健康が保たれていると考えている。気とは、形がなくて働きのあるもの、気とは生きる活力、エネルギーと考えられる。血とは西洋医学的な意味の血液とほぼ同じである。水とは漢方では血液以外の体液のことをいい。多彩な更年期障害の症状の中で、のぼせ、手足のほてり、肩こり、イライラなどの症状は「気」の異常、月経不順などは「血」の異常、めまい、むくみは「水」の異常と考えられる。
鍼灸に興味のある方は、三陰交や足三里に自分でお灸をするとよい。三陰交は婦人のさまざまな病気の治療に用いられる。更年期障害や月経困難症、逆子の治療に効果がある。足三里は胃腸を丈夫にして、気、血を調整し、結果として更年期障害を治療する効果がある。
・更年期障害に用いる漢方薬は、女神散、桂枝茯苓丸、加味逍遙散、当帰芍薬散である。女神散には、大黄が含まれているので、下痢に注意する。加味逍遙散には、梔子が含まれており下痢することがある。当帰芍薬散には、当帰と川きゅうが含まれているので胃腸障害や下痢を引き起こすことがある。更年期障害の基本処方は、加味逍遙散である。加味逍遙散は当帰、芍薬、牡丹皮、梔子、柴胡、薄荷、茯苓、蒼朮、生姜、甘草から構成されている。当帰、芍薬、牡丹皮、梔子は「血」の異常を治療し、柴胡、薄荷は「気」の異常を治療し、茯苓、蒼朮、生姜、甘草は「水」の異常を治療する生薬である。気、血、水に作用する生薬がバランスよく配合された処方である。
・体力がある場合(実証)は、のぼせ、頭重感、不眠、不安などの症状がある時には、女神散を用いる。のぼせがあり、腹力充実して下腹部が堅くて圧痛がある時には、桂枝茯苓丸を用いる。体力がない場合(虚証)は、第一選択薬として加味逍遙散を用いる。眩暈やお血のある時には、当帰芍薬散を用いる。
体力がある場合(実証)
女神散・体力が中等度以上でのぼせ、頭重感、不眠、不安などの症状がある時に用いる。
桂枝茯苓丸・のぼせがあり、腹力充実して下腹部が堅くて圧痛がある時に用いる。
体力がない場合(虚証)
加味逍遙散・体質は中間から虚弱で、たいへん幅広く用いられていて、更年期障害の第一選択薬である。
当帰芍薬散・体質は虚弱で、眩暈やお血のある時に用いる。
〔症例〕52歳、主婦。
半年前から、月経が無くなり、「かぁー」としたり、いらいら、のぼせの症状が出現してきた。紹介されて、漢方治療を求めて来院。体格は普通で、便秘しやすい体質である。加味逍遙散を投与したところ、いらいらやのぼせなどの症状が徐々に改善して、便通も良くなった。現在も服用中で、良好な経過である。